屋号は、後から変えるのに手間がかかります。
名刺を刷り直し、会への届出をやり直し、印鑑を作り替え、ドメインを取り直す。そしてドメインを変えると、それまでに積み上げた検索の評価がリセットされます。
だから開業前に決めるのですが、多くの方が「響きが良いか」だけで決めています。Web側から見ると、そこに落とし穴があります。
私たちはホームページを作る立場で、屋号が決まった後に「その名前だとドメインが取れません」と伝える場面を何度も経験しています。その前に知っておいてほしいことを書きます。
なお、事務所の名称については所属する行政書士会の規定がある場合があります。使える表記や届出の方法は、必ず所属予定の会に確認してください。この記事は、規定を満たした上でどう選ぶかという話です。
決める前に確認する4つ

① 同じ名前が近くにないか
「◯◯行政書士事務所」で名字を使うと、想像以上に重なります。
確認方法は簡単です。「名字 行政書士事務所」で検索してください。同じ名前が出てきたら、その名前で検索されたときに相手のサイトが先に出る可能性があります。
同じ地域に同名があると、電話の取り違えや郵便の誤配まで起きます。
② ドメインが取れるか
ここが見落とされます。屋号を決めてからドメインを探すと、たいてい取れません。
`お名前.com` などの登録サービスで、空き状況をその場で確認できます。無料です。屋号の候補が3つあるなら、3つとも調べてから決めてください。
③ ローマ字にしたとき、揺れないか
これがいちばん実害が出ます。
たとえば「斎藤」をローマ字にすると——
“`
saito / saitoh / saitou / saitō
“`
どれが正解か、相手には分かりません。口頭でURLを伝えられなくなり、名刺を見ながら打ち込む人が打ち間違えます。
「伊藤」「大野」「新井」なども同じ問題を持ちます。表記が1つに定まる名字のほうが、Web上では有利です。
④ 声に出したとき伝わるか
電話や紹介の場面で、一度で聞き取れるか。
長い屋号、難しい漢字、似た音が続く名前は、口頭で伝わりません。紹介は口頭で発生するので、ここは集客に直接効きます。
ドメインをどう選ぶか
屋号が決まったら、ドメインを取ります。開業前に取っておいてください。後から取ろうとすると、同名の誰かに取られていることがあります。
種類の選び方
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| `.com` | いちばん一般的。取られていることが多い |
| `.jp` | 日本のサイトだと分かる。士業では無難 |
| `.co.jp` | 法人のみ。行政書士事務所(個人)は取得できません |
行政書士事務所が個人事業として開業する場合、`.co.jp` は使えません。`.jp` か `.com` が現実的な選択になります。
長さも重要です。`saitogyoseishoshijimusho.com` のような長いドメインは、名刺に載せても読まれませんし、打ち間違えられます。短いほうが有利です。
検索の観点

地域名を入れるか
「神戸行政書士事務所」のように地域名を入れる形です。
利点 … 「地域名+行政書士」で検索されたときに、名前が一致します。地域で仕事を取る士業にとって、これは効きます。
欠点 … 移転したときに名前が合わなくなります。また、同じ地域名を使う事務所と競合します。
分野名を入れるか
「◯◯建設業許可サポート行政書士事務所」のような形です。
利点 … 何の専門か一目で分かります。差別化としては強い。
欠点 … 後から分野を広げられません。記事04で「1年やって手応えがなければ分野を変えてよい」と書きましたが、屋号に入れてしまうとそれができません。
→ 参考:「行政書士の差別化戦略」
私たちの推奨は、屋号には入れないことです。分野はサイトのトップページと名刺の肩書きで打ち出すほうが、後から変えられます。
屋号は変えにくく、肩書きは変えやすい。変えやすいほうに専門性を置いてください。
商標だけは確認しておく
見落とされがちですが、屋号が他社の登録商標と重なっていないかは確認しておいてください。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で無料で検索できます。「名字+士業名」程度の一般的な名称で問題になることは稀ですが、造語や英語名を使う場合は確認する価値があります。
「◯◯パートナーズ」「◯◯リーガル」のような名称は、他業種で登録されている可能性があります。開業後に指摘を受けると、屋号の変更という最も避けたい事態になります。
判断に迷う場合は、弁理士など専門家への確認が必要な領域です。ここは私たちの専門外なので、確認を促すところまでにとどめます。
よくある失敗
名字だけで決めて、同名が多数あった。
→ 検索で指名してもらえません。地域名を足すなどで差をつけてください。
ドメインを確認せずに決めた。
→ 全く違う綴りのドメインを使うことになり、名刺とURLが一致しません。
長すぎて、URLが名刺に収まらない。
→ 短縮形を別に用意することになり、余計に複雑になります。
分野名を入れて、扱う業務が増やせなくなった。
→ 屋号を変えるか、その分野に留まるかの選択になります。
SNSのアカウント名が取れなかった。
→ 屋号を決めた時点で、X や Instagram のアカウント名も確保しておいてください。無料です。
決める手順

候補を3つ出してから、まとめて調べるのがコツです。1つずつ調べると、調べ終えた頃に「やっぱり別の名前が」となります。
まとめ
- 屋号は後から変えにくい。ドメインを変えると検索の評価もリセットされる
- 決める前に同名の有無・ドメインの空き・ローマ字の揺れ・口頭で伝わるかを確認
- ローマ字表記が揺れる名字(斎藤・伊藤など)は、Web上で不利
- `.co.jp` は法人のみ。個人事業の事務所は `.jp` か `.com`
- ドメインは短いほうが有利
- 分野名は屋号に入れない。肩書きとトップページで打ち出す
- 屋号が決まったら、ドメインとSNSアカウントを同時に確保する
- 候補は3つ出してから、まとめて調べる
よくある質問
Q. 事務所名に使える表記に制限はありますか。
所属する行政書士会の規定によります。「行政書士法人」は法人のみ使えるなど、誤認を招く表記は認められない場合があります。登録前に必ず所属予定の会に確認してください。
Q. ドメインはいつ取るべきですか。
屋号が決まった時点です。ホームページを作る予定がなくても、押さえておいてください。年1,500円程度です。取られてからでは手遅れです。
Q. すでに屋号を決めてしまいました。
そのままで構いません。ドメインは屋号と完全に一致しなくても問題ありません。短く、打ち間違えにくいものを選べば十分です。
Q. 屋号で検索されることはありますか。
紹介を受けた人が確認のために検索します。このとき自分のサイトが出てこないと、そこで機会を落とします。受け皿の話は「行政書士にホームページは本当に必要か」で書いています。
