単価を上げる方法を聞かれたとき、「値上げの交渉術」を期待されることがあります。
実際は違います。単価は交渉で上がるものではなく、選ばれ方で決まります。「この人にしか頼めない」と思われていれば通り、「誰でもできそう」と思われていれば通りません。
だから順番があります。先に見え方を変え、それから値段を変える。逆にすると、依頼が止まります。
なぜ安く受けてしまうのか

構造的な理由が3つあります。
① 比較の土俵に乗っている
「行政書士業務全般」と掲げていると、依頼者から見てどの事務所も同じです。同じものが並べば、安いほうが選ばれます。これは当然の話です。
② 最初の1件を取るために下げた
開業直後、実績が欲しくて相場より安く受ける。その金額が、その後の基準になります。
さらに厄介なのは、紹介される相手も同じ価格帯になることです。安く受けた依頼者は、同じくらいの予算の知人を紹介します。
③ 何に対する報酬か説明していない
「建設業許可 11万円」だけだと、書類を作る作業の代金に見えます。実際には要件の判断、行政との調整、差し戻しの防止が含まれているのに、それが伝わっていません。
見えない仕事には、値段がつきません。
値上げの前にやること
順番を守ってください。ここを飛ばして値上げすると、依頼が止まります。
専門を1つ明示する
いちばん効きます。「建設業許可専門」と掲げるだけで、比較の対象が変わります。
「◯◯専門」の事務所と「何でも対応」の事務所では、同じ金額でも前者のほうが安く感じられます。詳しくは「行政書士の差別化戦略」で書いています。
何が含まれるかを書く
料金表に、作業の内訳を添えてください。
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建設業許可(知事・新規) 11万円〜
・要件の事前確認
・必要書類の収集代行
・申請書の作成と提出
・許可後の届出時期のご案内
※法定手数料は別途
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同じ11万円でも、内訳があるほうが高く見えません。「何をしてくれるのか」が分かるためです。
相場を確認する
自分の金額が高いのか安いのか、感覚で判断している方が多いです。
日本行政書士会連合会は報酬額の統計調査を公表しています。分野ごとの実際の金額分布が分かるので、一度確認してください。自分が相場のどこにいるか把握してから決めるほうが安全です。
顔と実績を出す
誰がやるか分からない相手に、高い金額は払えません。顔写真、登録番号、扱った件数。ここが埋まっていると、金額の説得力が変わります。

単価を上げる4つの方法

① 値段を変えずに、対象を変える
いちばん安全な方法です。同じ金額でも、より予算のある依頼者に届けば実質的に単価が上がります。
個人事業主向けから法人向けへ。小規模事業者から、複数拠点を持つ会社へ。看板の書き方を変えるだけでも、来る層は変わります。
② まとめて受ける
許認可を取ったら終わり、ではなく、その後の届出まで含めて提示する。
「許可申請 11万円」を「許可申請+1年目の届出サポート 15万円」にする。依頼者にとっても、都度頼むより楽です。
③ 新規の依頼だけ上げる
既存の依頼者はそのままにして、新規の金額だけ上げる。
リスクがいちばん小さい方法です。しばらく様子を見て、問い合わせが減らなければ定着します。減った場合も、既存の売上は残っています。
④ 正面から値上げする
既存の依頼者にも適用します。効果は大きいですが、離れる人も出ます。
伝えるときは、理由と時期を明確に。「◯月から改定します。対応範囲に◯◯を追加しました」。値上げだけを伝えるのではなく、増える部分を必ず添えてください。
断ることも単価を守ります
安い依頼を受け続けると、単価を上げる時間がなくなります。
「予算が合わないので、今回はお受けできません」と言うのは、失礼なことではありません。そのうえで、別の選択肢を示せると印象が良くなります。
- 「範囲を絞れば◯万円でお受けできます」
- 「ご自身で申請される前提で、書類のチェックだけなら◯万円です」
- 「この分野なら◯◯さんが詳しいです」
受けないという選択が、次の依頼の質を上げます。
見積の出し方で結果が変わる
同じ金額でも、出し方で受注率が変わります。
1案しか出さない。 「11万円です」だけだと、受けるか断るかの二択になります。
3つ並べる。 「範囲を絞った案/標準案/届出まで含む案」。3つあると、真ん中が選ばれやすくなります。しかも「高いか安いか」ではなく「どれにするか」の判断に変わります。
期間を必ず書く。 「許可まで約1ヶ月」。期間が分かると、金額の妥当性が判断しやすくなります。
次に何が必要かを書く。 「許可の1年後に決算変更届が必要です」。先を示すと、継続の話につながります。
見積は値段を伝える書類ではなく、判断を助ける書類です。ここを整えるほうが、値上げより早く効くことがあります。
やってはいけないこと
黙って上げる。 既存の依頼者に説明なく上げると、信用を失います。
忙しさを理由にする。 「手一杯なので」は、依頼者には関係のない話です。
他事務所より安いことを売りにする。 すぐ真似されますし、下げ続けることになります。
値下げ交渉に即応する。 一度下げると、その依頼者の基準が変わります。範囲を狭めて金額を合わせるほうが健全です。
まとめ
- 単価は交渉ではなく、選ばれ方で決まる
- 先に見え方を変え、それから値段を変える
- 安く受けてしまう原因は比較の土俵・最初の値付け・説明不足の3つ
- 値上げの前に、専門の明示・内訳の記載・相場の確認・顔と実績を整える
- 連合会が報酬額の統計調査を公表している。自分の位置を確認する
- 上げ方は4つ。まず「新規だけ上げる」がいちばん安全
- 断ることも単価を守る。別の選択肢を添えると印象が良い
よくある質問
Q. 値上げして依頼が減ったらどうしますか。
新規だけ上げれば、既存の売上は残ります。1〜2ヶ月様子を見て、問い合わせが明確に減ったなら戻せます。実際には「減らない」ことのほうが多いです。
Q. どれくらい上げていいですか。
一度に倍にすると反応が読めません。まず1〜2割から試してください。相場より大きく下にいるなら、もっと上げる余地があります。
Q. 相場より高い金額でも受注できますか。
できます。ただし高い理由が見えている必要があります。専門性、対応の速さ、含まれる範囲。何も示さずに高いだけでは通りません。
Q. 値段を載せるのが怖いです。
載せないと比較の土俵に乗りません。幅で書けば十分です。詳しくは「行政書士のHPに載せるべき内容チェックリスト」で書いています。
