「差別化」と聞くと、他にない特別な強みを作る話のように思えます。
実際は違います。行政書士の差別化は、絞るだけで9割終わります。新しい能力を身につける必要はありません。いま扱っている業務のうち、どれを前に出すかを決めるだけです。
なぜそれで足りるのか。絞っていない事務所が、圧倒的に多いからです。
絞るだけで、なぜ選ばれるのか

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依頼者の立場で考えると、はっきりします。
建設業許可を取りたい人が、2つの事務所を見つけました。
A事務所「行政書士業務全般に幅広く対応。許認可、相続、契約書作成など何でもご相談ください」
B事務所「建設業許可専門。年間◯件の申請を扱っています」
どちらに頼むか、考える必要すらありません。
ここで大事なのは、AとBの実力が同じでも結果は変わるということです。実際にAのほうが経験豊富なこともあります。それでも選ばれるのはBです。
依頼者は実力を測れません。測れるのは「自分の悩みに近そうか」だけです。
絞る軸は3つある
分野だけが絞り方ではありません。3つの軸があり、組み合わせられます。
① 分野で絞る
建設業許可、相続、在留資格。いちばん分かりやすい軸です。
② 対象で絞る
「創業1年目の建設会社向け」「外国人を雇う中小企業向け」。分野が同じでも、対象を絞れば別の事務所に見えます。
③ 地域で絞る
「◯市の建設業者専門」。地域を狭くすると、その地域では圧倒的に強くなります。
組み合わせると、競合はほぼ消えます。「大阪市の建設業許可」まで絞れば、同じ看板を出している事務所はほとんどありません。
どの分野を選ぶか

「好きな分野」で選ぶと失敗します。判断すべきは、次の2つが重なっているかです。
経験や人脈が届くか
前職が建設会社なら建設業許可。運送会社にいたなら運送業。業界の言葉が分かることは、想像以上に大きい武器です。
依頼者は、業界の事情を説明しなくて済む相手を選びます。人脈があれば、最初の数件も取りやすくなります。
地域に需要があるか
自分の地域に、その業種の事業者が何社あるか。建設業者が多い地域なら建設業許可、外国人労働者が多い地域なら在留資格。
これは調べられます。市区町村の統計や、業界団体の会員名簿を見てください。
重ならない場合
経験はあるが地域に需要がない、あるいは需要はあるが経験がない。この場合は需要を優先してください。経験は後から積めますが、需要は作れません。
「絞ると仕事が減る」は逆
いちばん多い抵抗がこれです。実際は逆で、絞ったほうが増えます。
理由は3つあります。
指名で来るようになる。 「建設業許可なら◯◯さん」と覚えてもらえます。「何でもやる人」は思い出してもらえません。
紹介しやすくなる。 他士業が紹介するとき、「建設業許可に強い行政書士がいます」と言えます。「行政書士の知り合いがいます」では紹介になりません。
単価が上がる。 専門家には相場より高い金額を払います。「誰でもできること」と思われた瞬間、価格で比べられます。
そして重要な点として、絞るのは「看板」だけです。看板に建設業許可と書いていても、相続の依頼が来たら受けて構いません。実際に受ける仕事を狭める必要はありません。
需要の調べ方
「地域に需要があるか」は感覚で判断しがちですが、無料で調べられます。
市区町村の統計 … 事業所数を業種別に公表しています。建設業が何社あるかが分かります。
業界団体の会員名簿 … 建設業協会、運送業の組合など。会員数と所在地が見えます。
Googleマップで検索 … 「◯市 建設会社」で並べると、規模の感覚がつかめます。
許可の公表データ … 建設業許可や産廃許可は、都道府県が業者一覧を公表しています。更新時期が近い事業者を探すこともできます。
もうひとつの見方として、競合の少なさも確認してください。「◯市 建設業許可 行政書士」で検索して、専門を打ち出している事務所が1つも出てこなければ、そこは空いています。
やってはいけない差別化
価格で戦う
「他より安く」は、いちばん簡単で、いちばん危険です。すぐ真似されますし、下げ続けることになります。そして安さで来た依頼者は、より安いところが出れば移ります。
スピードだけを謳う
「最短即日」。これも真似されます。それに、速さは繁忙期に破綻します。約束できなくなった瞬間、信用を失います。
「丁寧・誠実」を強みにする
どの事務所も同じことを書いています。書いていないのと同じです。
差別化になるのは、他の事務所が真似しにくいものだけです。前職の経験、業界の人脈、地域での実績。これらは時間がかかるため、簡単には追いつかれません。
絞ったあと、どう伝えるか
決めただけでは伝わりません。全部の接点で言い換えてください。
| 場所 | 書き方 |
|---|---|
| 名刺 | 「建設業許可専門」を氏名の近くに |
| ホームページ | トップの1行目に |
| 挨拶 | 「建設業の許可をやっています」 |
| 他士業への説明 | 「建設業許可なら回してください」 |
とくに他士業への伝え方が効きます。相手が紹介できる形の言葉にしておくと、紹介の発生率が変わります。
見直しは1年ごと

一度決めたら変えられない、というものではありません。
1年やってみて、来る相談の傾向を見る。思っていたのと違う分野の依頼が多ければ、そちらに寄せていく。実務をやってみて初めて分かることも多いです。
大事なのは、まず1つ決めて出すことです。決めないまま「何でもやります」で数年過ぎるのが、いちばん機会を失います。
まとめ
- 差別化は特別な強みを作ることではなく、絞ることでほぼ足りる
- 依頼者は実力を測れない。測れるのは「自分の悩みに近そうか」だけ
- 絞る軸は分野・対象・地域の3つ。組み合わせると競合はほぼ消える
- 選ぶ基準は「経験・人脈が届くか」と「地域に需要があるか」の重なり。重ならないなら需要を優先
- 絞ると仕事は減らない。指名・紹介・単価が上がる
- 絞るのは看板だけ。実際に受ける仕事を狭める必要はない
- 価格・スピード・「丁寧」は差別化にならない。真似されるか、誰も書いていないのと同じ
- 見直しは1年ごと。まず決めて出すことが先
よくある質問
Q. 開業直後で、どの分野が向いているか分かりません。
まず数件受けてみてください。どんな相談が来るか、どの業務が苦にならないかは、やってみないと分かりません。3〜6ヶ月やってから決めるので間に合います。
Q. 2つ以上の分野を看板にしてもいいですか。
2つまでなら問題ありません。3つを超えると「何でも屋」に戻ります。関連する分野(建設業許可と産業廃棄物など)なら、2つでも一貫して見えます。
Q. 同じ地域に、同じ分野の事務所がすでにあります。
対象か地域をさらに絞ってください。「創業間もない事業者向け」「◯区限定」。同じ分野でも、対象が違えば競合しません。
Q. 絞った分野の依頼が来なかったら。
看板を変えれば済みます。1年やって手応えがなければ、別の分野に寄せてください。サイトの文言を直すだけで、資格が変わるわけではありません。手段の全体像は「行政書士の集客方法まとめ」にまとめています。
